エンペラーペンギン

世界最大のペンギンです。ペンギンといえばこの種を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

基本データ

■エンペラーペンギンの容姿■

エンペラーペンギンの写真
  • 和名:エンペラーペンギン(コウテイペンギン)
  • 学名:Aptenodytes forsteri(アプテノディテス フォルステリ)
  • 属:エンペラーペンギン属
  • 亜種:なし
  • 体長:110~130cm
  • 体重:30~40kg
  • 寿命:20~25年
  • 推定生息数:50万羽
  • 平均遊泳速度:3~10km/h
  • 最深潜水記録:564m
  • 渡り:1~4月
  • 産卵数:1卵
  • 性成熟:5歳
  • 主なコロニー:南極大陸周辺の氷上、テールアデリー、クロージア岬、ワシントン岬、ビクトリアランドのコールマン島、ハリー湾、クイーンモードランド
  • 主な食べ物:コオリイワシ、オキアミ

1年間の生活スケジュール

詳しい内容については「繁殖と子育て」の章で説明します。

ペンギンカレンダー ペンギンカレンダー(スマホ用)

名前の由来

名前の「エンペラー」はキングペンギンとよく似ていることから「王様」にちなんで「皇帝(エンペラー)」と名付けられました。最初に南極探検隊がエンペラーペンギンを持ち帰った際、そのペンギンはキングペンギンだと思っていたようです。学名の「フォルステリ」は、キングペンギンを発見したジェームズ・クックと航海を共にしたJ.R.フォースターにちなんで名付けられました。

生息数の動向

生息数は安定的に維持されています。あえて過酷な条件下で繁殖を行うことが種の繁栄に有利に働いているといえます。

生息地

エンペラーペンギンは氷の上で繁殖する唯一のペンギンで、コロニーの大部分は南極大陸周辺の海が凍った定着氷の上にあります。コロニーとなる海は秋になると氷始め、夏には溶けてゆきます。そのため、エンペラーの生活は海の状態と気温に依存し、地球温暖化で氷がなくなると繁殖活動に影響が及びます。

■エンペラーペンギンの生息地■

エンペラーペンギンの生息地

ヒナ

産まれたばかりのヒナは短い産毛しか生えていませんが、すぐに綿羽に生え換わります。色は全体的に灰色です。頭は白い2つの円形の部分がアゴの下で繋がっていて、それを囲むように黒い部分があり、お面をしているような可愛らしい見た目です。このお面のようなヒナの顔は、エンペラーペンギンだけが持つ特徴で、白と黒のツートンカラーが吹雪の中でも目立ち、親に自分の居場所を伝える役割をもつと考えられています。

巣立ちを迎えた亜成鳥は大人とほぼ同じ見た目になりますが、大人と比べて模様の鮮やかさに欠けます。

■ヒナの容姿■

エンペラーペンギンのヒナの写真 エンペラーペンギンのヒナの写真

■亜成鳥の容姿■

エンペラーペンギンの亜成鳥写真

潜水と採餌

狙う獲物によって浅い潜水と深い潜水を使い分けています。小魚や甲殻類を狙う場合は浅い海で3分程度の潜水を、大きな魚やイカ類を狙う場合は深い海で12分程度の潜水を行います。体の大きなエンペラーペンギンの潜水は他のペンギンの群を抜き、最長潜水時間は22分、最新潜水深度は564mにも及びます。ただし、基本的には水深の浅い大陸棚周辺で狩りをするため、これほど深く潜ることは稀です。

■潜水の様子■

エンペラーペンギンの潜水の様子

■素早い泳ぎと上陸の様子■

繁殖と子育て

コロニーへの帰還

秋になると南極大陸周辺に定着氷が形成され、4月上旬には自分の産まれたコロニーへ帰還を始めます。コロニーは海から数十キロ先の内陸部にあるため、歩く早さが時速1.6km程度のエンペラーペンギンは3日間ほど苦しい歩行を続ける必要があります。通常、ペンギンのコロニーは海から近い沿岸につくられるので、エンペラーペンギンの子育てはコロニーへの帰還から過酷だと言えます。

コロニーに到着すると、まずはつがいの相手を探します。つがい探しはメスが積極的に行い、オスはメスの誘いに従う傾向があります。

■コロニーのイメージ■

エンペラーペンギンのコロニーのイメージ

■歩行の様子■

つがいの絆

つがいの結びつきはほとんど維持されません。エンペラーペンギンは毎年異なるパートナーとつがいになります。

営巣

エンペラーペンギンは巣を作りません。そのためなわばり意識もほとんどありません。巣の代わりに自分の脚の上に卵を置いて温めます。

産卵と抱卵

メスは5月下旬に1つの卵を産みます。コロニーへの帰還から産卵までは絶食状態です。

メスが産卵を終えると、卵をオスに託して海へ向かい、40日ほどの絶食を終わらせます。メスが採餌から帰ってくるのは卵が孵化する70日後です。オスは70日間、厳しい冬の南極の寒さから、絶食状態で卵を温めて守る必要があり、子育て期間中の最も過酷な時期と言えます。

卵は抱卵嚢(ほうらんのう)と呼ばれるお腹の肌が露出した部分で温められます。卵を温める際はじっとしているイメージがありますが、ハドルの動きに応じてしばしば位置を変えています。

■抱卵(偽卵)の様子■

エンペラーペンギンの抱卵の様子

孵化と保護期

70日ほど経つと卵はオスの脚の上で孵化します。ヒナが生まれると、オスは食道からタンパク質や脂肪が含まれるペンギンミルク(※1)を与えます。ペンギンミルクだけでもヒナは2週間ほど育つので、メスはこのタイミングで採餌から帰ってきます。しかし、メスが何からの理由で帰らなかった場合、オスは絶食の限界を迎え、ヒナを放棄して海へ出かけざるを得ません。

メスが無事帰ってきても油断はできません。オスは育児を交代するため、ヒナ(※2)をメスの脚に素早く受け渡す必要があります。もしも、受け渡しに時間がかかったり、氷の上に落としてしまうと、マイナス50度を超える寒さでヒナは凍死してしまいます。無事受け渡しを終えると、オスは120日ほどの絶食を終わらせるため海へ向かい、25日ほど採餌を行います。当然、海に到着するまでは絶食が続くため、海から遠いコロニーのオスは絶食期間が6ヶ月にも及ぶこともあるそうです。オスは絶食期間中に体重が10kgほど減少し、これは体重の40%に相当します。

エンペラーペンギンの卵の孵化率は8割程度と言われています。孵化に失敗する原因には、卵の受け渡しの失敗、仲間同士の争いによる破壊、無精卵が挙げられます。特に経験の浅い若いつがいは、卵やヒナの受け渡しの失敗が多いようです。

ヒナは孵化後40日ほど両親の保護下で、天敵や体温の低下から守られて育ちます。オスが採餌から帰ってからは、両親が交代してヒナの保護と採餌を行います。

※1:哺乳類のお乳と異なり、胃や食道の粘膜を溶かして作られます。絶食状態でありながら更に自分の体を削ってヒナにエサをあげているのです。

※2:卵が孵ってない場合は卵です。

■給餌の様子■

エンペラーペンギンの給餌の様子

クレイシ期

孵化後40日ほど経った8月になると、ヒナは親が抱けないほど成長し、4~5ヶ月ほどクレイシに加わります。両親はヒナの旺盛な食欲に応えるため、同時に採餌へ出かけるようになります。クレイシにはヒナが何十羽といますが、両親は鳴き声でヒナを見分け、決して他所のヒナに給餌を行いません。

巣立ち

ヒナは孵化後6ヶ月ほどで綿羽が抜け落ちて巣立ちます。ヒナの2年後の生存率は3割ほどと言われています。

換羽

ヒナが巣立つと40日ほどかけて換羽前の採餌旅行に出かけます。換羽は1月~2月に35日ほどかけて行い、その間に体重は半減します。換羽中は定着氷や南極大陸の海岸に立っています。

■換羽の様子■

エンペラーペンギンの換羽の様子

■換羽の様子(亜成鳥)■

エンペラーペンギンの換羽の様子

ハドル

エンペラーペンギンは過酷な冬を生き抜くため、円陣になって互いに体を寄せ合う習性があり、これをハドルと呼びます。ハドルは数百から時には数千のペンギンで形成され、大きな円形に群れることでエネルギー消費を25%ほど節約する効果があります。

ハドルが形成されると、外側にいた個体はやがて寒さに耐えられなくなり、風下側へ移動します。時間が経過すると、同じように別の個体が風下側へ移動し、最初に外側にいた個体はハドル中央の最も温かい場所に移動できます。ハドルは特定の個体だけが冷えて死んでしまうことを防いでいるのです。

ハドルの密度は1平方メートルあたりに10羽にもなり、これほど密集して群れるのはエンペラーペンギンが唯一です。このようなハドルの習性があるため、エンペラーペンギンはなわばり意識を持ちようがなく、温和な性格の理由にもなっています。

■ハドルの位置交換の仕組み■

ハドルの位置交換の仕組み

ゆるいハドルときついハドル

ハドルには気温に応じてゆるいハドルときついハドルの2種類があります。

ゆるいハドルは気温がマイナス10度になると形成され、お互いの体がつかない程度に密集し、風を防ぐことだけを目的としています。なお、いくら風が強くても気温が高い場合はゆるいハドルを形成しません。きついハドルは気温がマイナス22度になると形成され、お互いの体を寄り合わせて体温を伝え合い、寒さも防ぐことを目的としています。

ハドルとつがい

つがいでハドル内に入る場合、お互いを見失わないようにオスがメスを誘導し、メスはオスの後ろについてきます。

ヒナを巡る争い

エンペラーペンギンはヒナを誘拐するほど母性が強いことで有名です。繁殖に失敗し、ヒナが死んだ直後の親が、他所のヒナに給餌を行うほどです。また、メスの中には卵を盗んだり、ヒナを奪うために、抱卵中や子育て中の親を襲う個体もいます。そのような行為の結末は、卵が割れたり、ヒナが押しつぶされて死んだりと、悪い結果になりがちです。

さらに、メスはつがいが形成されたオスに対しても鳴き声で気をひこうとします。しつこい相手だとオスが抱卵を開始するまで諦めません。そのため、つがいを形成した個体同士は卵を産むまで泣き交わしを控え、厄介者のメスがオスの鳴き声を求愛と勘違いして、オスを横取りするのを防いでいます。