ジェンツーペンギン
イラストでペンギンの脚はよく黄色に描かれますが、実際に脚が黄色いペンギンはジェンツーペンギンのみです。
基本データ
■ジェンツーペンギンの容姿■
- 和名:ジェンツーペンギン
- 学名:Pygoscelis papua(ピゴスケリス パプア)
- 属:アデリーペンギン属
- 亜種:キタジェンツーペンギン、ミナミジェンツーペンギン
- 体長:78~84cm
- 体重:5~7kg
- 寿命:10~15年
- 推定生息数:95万羽
- 平均遊泳速度:7km/h
- 最深潜水記録:166m
- 渡り:なし(一部コロニーではあり)
- 産卵数:2卵
- 性成熟:2歳
- 主なコロニー:サウスジョージア島、フォークランド諸島、ケルゲレン島、ハード島、クローゼー諸島、サウスサンドイッチ諸島、サウスオークニー諸島、マックォーリー島
- 主な食べ物:魚類、オキアミ、甲殻類
1年間の生活スケジュール
ジェンツーペンギンは繁殖開始時期にばらつきが見られるため、このカレンダーは一例です。
詳しい内容については「繁殖と子育て」の章で説明します。
名前の由来
名前の「ジェンツー」は英名の「gentoo」をそのままカタカナ表記したものです。英名の「gentoo」はポルトガル語で異教徒を意味し、頭の白い帯模様がターバンを連想させることから名付けられました。学名の「パプア」はパプアニューギニアに由来していますが、ジェンツーペンギンには何もゆかりのない地です。こんな不似合いな熱帯地域の名前がつけられたのは、剥製標本につける札をつけ間違えたという、なんとも単純なミスが原因です。
生息数の動向
生息数は安定的に維持されて、増加傾向にあります。
生息地
南緯46~65°の南極をとりまく帯状に広く分布しています。大多数の個体は年間を通してコロニーの周辺海域に留まりますが、渡りを行う放浪個体も一部確認されていて、タスマニアやニュージーランドにまで達することがあります。
ジェンツーペンギンは非常に広範囲に分布しているため、キタジェンツーペンギンとミナミジェンツーの2つの亜種に分けられます。キタジェンツーペンギンはフォークランド諸島、サウスジョージア島、ハード島、ケルゲレン島、マックォーリー島、ロスエスタードス島、マリオン島、クローゼー諸島に生息しています。
ミナミジェンツーペンギンは南極半島、サウスシェトランド諸島、サウスオクーニ諸島、サウスサンドイッチ諸島、南極半島周辺の島々に生息しています。
■ジェンツーペンギンの生息地■
飼育環境にもよく慣れるので世界中の動物園で見ることができます。
ヒナ
ヒナは頭から背中にかけて灰色、胸から腹にかけて白色の綿羽に覆われています。
巣立ちを迎えた亜成鳥は大人とほぼ同じ見た目になりますが、頭の白い帯模様は小さく、目の周りのアイリングもありません。
■ヒナの容姿■
潜水と採餌
コロニー周辺の15~25kmほどの海域で平均して36mほどの潜水を繰り返して採餌します。平均遊泳速度は他のペンギンと大差のない7km程度ですが、獲物を追いかける際は、最高速度が35kmほどにも達し、ペンギンの中で最速の泳ぎを見せつけます。高緯度地域は低緯度地域と比べ、エサとなる生物が豊富であるため、ミナミジェンツーペンギンはキタジェンツーペンギンよりも潜水時間が短い傾向にあります。
■潜水の様子■
■上陸を邪魔される様子■
繁殖と子育て
コロニーへの帰還
大多数のジェンツーペンギンはコロニー周辺に定住していますが、一部のミナミジェンツーペンギンは渡りを行い、コロニーに戻ってくるのは9月頃です。
つがいの絆
つがいの結びつきは維持される傾向が強く、1度つがいになると翌年も同じパートナーと同じ巣で繁殖をします。また、営巣地が変わったとしても、つがいは維持される場合が多いです。
繁殖時期のばらつき
ジェンツーペンギンは気温や海水温が異なる広範囲に分布しているため、コロニーによって繁殖スケジュールは夏から冬(※1)までばらつきがあります。そのため、以降説明する繁殖スケジュールはフォークランド諸島での観察結果を例としたものとします。
※1:南緯46°に位置するクローゼー諸島は、冬が比較的穏やかなため冬季の繁殖が可能です。ただし、エサの量は1年で最低の時期なため、繁殖の難易度は高くなります。
営巣
巣はコロニーの環境によって作り方が異なります。寒冷地のコロニーでは小石を積み上げて作られます。温暖なコロニーでは砂地に穴を掘り、草木や海藻を敷き詰めて作られます。巣作りはメスの役割で、オスは巣材集めの担当です。
■飼育下でも小石を巣に集める■
■巣材の小石をつがいに渡す様子■
産卵と抱卵
メスは10月下旬に2つの卵を産みます。両親は卵が孵るまで2~3日におきに交代で抱卵と採餌を行います。
■抱卵の様子■
孵化と保護期
37日ほどで卵が孵ると、ヒナは1ヶ月ほど親の保護下で、天敵や体温の低下から守られて育ちます。
クレイシ期
孵化後1ヶ月ほど経つと、ヒナは親が抱けないほど成長し、以降50~60日ほどクレイシに加わります。ヒナの旺盛な食欲に応えるため、両親は同時に採餌に出かけるようになり、ヒナは親の帰りを待ちます。給餌から戻った親は、エサを要求するヒナからわざと逃げて、2羽のヒナを走らせて巣立ちのトレーニングをさせます。この時、より長時間走ることができる、体の大きいヒナが優先的に給餌を受けることになり、小さい方のヒナは餓死することもあります。
なお、コロニーによってはクレイシに入る文化がなく、2羽か1羽で両親を待つこともあります。
巣立ちが2週間後に迫る時期になると、ヒナは成鳥に混じって潜水や採餌を学ぶようになります。この間も両親はヒナへの給餌を欠かしません。
巣立ち
ヒナは孵化後90日ほどで巣立ちます。巣立ちに要する期間は同じアデリーペンギン属のアデリーペンギンやヒゲペンギンの倍ほどです。ヒナの2年後の生存率は40~60%ほどと言われています。
ジェンツーペンギンの繁殖成功率は2卵中1羽ほどです。
換羽
ヒナが巣立つと20~30日ほどかけて換羽前の採餌旅行に出かけます。換羽の開始時期はコロニーによって差があり、12月下旬から3月下旬までばらつきます。換羽に要する期間は20日ほどで、この間に体重は4~5割ほど減少します。
ご近所付き合い上手
ジェンツーペンギンのコロニーは、生息地を共にするアデリーペンギン、ヒゲペンギン、マカロニペンギン、マゼランペンギンなど、他種の大きなコロニーの縁によく作られます。これは卵やヒナを狙う天敵から狙われにくくする対策と考えられています。また、仲間や他種のペンギンに対して友好的な、ジェンツーペンギンの性格も理由の一因と言われています。