フンボルトペンギン
日本で最も飼育数が多いペンギンと言われ、1000羽以上のフンボルトペンギンが日本で暮らしています。
基本データ
■フンボルトペンギンの容姿■
- 和名:フンボルトペンギン
- 学名:Spheniscus humboldti(スフェニスクス フンボルディ)
- 属:フンボルトペンギン属
- 亜種:なし
- 体長:65~75cm
- 体重:4~5kg
- 寿命:10~12年
- 推定生息数:4万羽
- 平均遊泳速度:4~7km/h
- 最深潜水記録:53m
- 渡り:なし(一部のコロニーでは3~8月)
- 産卵数:2卵
- 性成熟:3歳
- 主なコロニー:チャニャラル島、プンタサンファン
- 主な食べ物:カタクチイワシ、マイワシ、甲殻類
1年間の生活スケジュール
フンボルトペンギンは1年中繁殖する可能性があるため、このカレンダーは一例です。
詳しい内容については「繁殖と子育て」の章で説明します。
名前の由来
名前と学名の「フンボルト」の由来は、共にフンボルト海流の沿岸に生息していることから名付けられました。
生息数の動向
エサとなる魚の乱獲や、住処となるグアノ層(※1)の採取によって減少傾向にあります。1800年代には100万羽いたとされていますが、現在は4万羽程度にまで数を減らしています。
主なコロニーの個体数は過去15年を通して安定しているようです。ただし、大規模なエルニーニョ現象が発生すると個体数が減る恐れがあります。
飼育環境への適応能力が高く、世界中の動物園などで3万羽が飼育されています。日本にも1000羽を超えるフンボルトペンギンが暮らしています。
※1:ペンギンや海鳥などのうんちや死骸が積み重なってできた地層。非常に良質な肥料となる。
生息地
名前の由来となっているフンボルト海流が流れる南アフリカのペルーからチリの沿岸で暮らしています。 全てのペンギンの中で最も南北に生息域が広いペンギンです。北は南緯5°のペルーのフォカ島から、南は南緯42°のチリのチロエ島まで分布しています。北側の低緯度地域は砂漠地帯の乾燥した大地で、ペンギンのイメージとはかけ離れた気候となっています。フンボルトペンギンよりも北側で暮らすペンギンはガラパゴスペンギンのみです。
生息域が南北に非常に広いので、北側と南側の分布域では繁殖サイクルに差が見られます。
■フンボルトペンギンの生息地■
ヒナ
ヒナは頭から背中にかけて茶色、胸から腹にかけて白色の綿羽に覆われています。
巣立ちを迎えた亜成鳥は成長に似ていますが、頭に露出したピンク色の肌や、胸の黒いラインがないため、見分けるのは容易です。
■ヒナの容姿■
■亜成鳥の容姿■
潜水と採餌
1~2分低度25m以下の浅い潜水を繰り返して採餌を行います。北側地域の個体は定住性のため、1年を通してコロニー周辺8~30km低度の近海を泳ぎます。一方で南側地域の個体は、3~8月に渡りを行うため、コロニーから離れて遠方の海を泳ぎます。
■潜水の様子■
■素早く泳ぐ際のイルカ泳ぎ■
繁殖と子育て
1年中繁殖可能
フンボルトペンギンには他のペンギンのような決まった繁殖期がなく、1年中繁殖する可能性があります。ただし、平均的な繁殖のピークは4~5月と言われています。
また、北側と南側のコロニーでは年間の繁殖回数が異なります。北側のコロニーでは多くの個体が年に2回繁殖すると言われており、その年の最初の繁殖に失敗したつがいのほとんどが9~10月に2回目の卵を産み、成功したつがいも半数が2回目の卵を産むようです。南側のコロニーでは1年に1回しか繁殖を行いません。ヒナが巣立つと渡りを開始し、次のシーズンまでコロニーに帰還することはないようです。
コロニーへの帰還
北側の個体は定住性で年間を通してコロニーで暮らしていますが、換羽前後の採餌旅行で数週間コロニーを離れます。南側の個体は7月下旬にコロニーに帰還し、すぐに換羽を行い、換羽が終わると数週間の採餌旅行へ出かけます。
オスはメスよりも先に換羽後の採餌旅行から帰ってきます。メスが帰ってくるとオスは巣のそばで求愛をはじめます。フンボルトペンギンは繁殖期間中の仲間同士のケンカが、他のペンギンと比べると比較的少ない傾向にあります。
つがいの絆
つがいの結びつきは維持される傾向が強く、一度つがいになると毎年同じパートナーと繁殖を行います。
営巣
海岸の岩場やその近辺の洞窟、グアノ層や砂地に穴を掘って巣を作ります。中でもグアノ層の営巣地は穴を掘りやすく、天敵や強い陽射しからヒナを守るのに有利なため、強い人気があります。また、グアノ層以外の営巣地は繁殖成功率が低い傾向にあるようです。
■巣材を運ぶ様子■
産卵と抱卵
メスは2つの卵を2日空けて産みます。
卵の孵化に要する40日ほどの間、両親は交代で卵を温めます。
■抱卵の様子(偽卵)■
孵化と保護期
40日ほどで卵が孵ると、ヒナは3~4週間ほど親の保護下で、天敵や体温の変動から守られて育ちます。この間、ヒナの保護役は両親が交代で行います。
孵化後3~4週が経過し、親の保護期が過ぎて、両親が同時に採餌に出かけるようになってもクレイシは作りません。ヒナは単独で巣に残って両親を待ち続けます。
■給餌の様子■
巣立ち
ヒナは孵化後75~85日で巣立ちます。ヒナの2年後の生存率は2~3割ほどと言われています。
フンボルトペンギンの繁殖成功率は2卵のうち1羽が巣立つ、稀に2羽とも巣立つ低度です。
■巣立ち目前のヒナ■
換羽
ヒナが巣立つと2~4週間ほどかけて換羽前の採餌旅行に出かけます。北側分布域の大多数の個体は、換羽を1~2月に開始し、2~3週間ほどかけて行います。換羽により体重は30~50%程度減少します。換羽中は海風を利用するため、海岸の岩場に集まって群れを形成しています。換羽後は体力を回復するため、2~4週間ほどかけて採餌旅行に出かけます。
■換羽の様子■
エルニーニョ
フンボルトペンギンの繁殖成功率はエルニーニョ現象発生の有無に大きく依存しています。
繁殖時期にエルニーニョが発生し、コロニー周辺の海水温が上昇すると、巣の近海でエサが捕れなくなります。親は何百キロと離れた遠方の海までエサを探しに行かざるを得ません。こうなると、日帰りで巣に戻ることは不可能になり、長期間巣を離れることになります。巣でパートナーを待つつがいもやがて空腹に耐えることができず、子育てを断念し、卵やヒナを放棄して採餌に出かけるのです。
浮気
フンボルトペンギンはよく浮気します。浮気の2/3はメスが主導的に行い、オスを巡ってメス同士で争うこともあります。このことから、つがい関係の形成と維持について、メスが主導権を持っていることが示唆されています。