ミナミイワトビペンギン

恐らくマカロニペンギン属の中で最も有名なペンギン。飾り羽があるペンギンは全てイワトビペンギンと思っている人も多いのではないでしょうか。

基本データ

■ミナミイワトビペンギンの容姿■

ミナミイワトビペンギンの写真
  • 和名:ミナミイワトビペンギン(オウサマペンギン)
  • 学名:Eudyptes chrysocome(エウディプテス クリソコーメ)
  • 属:マカロニペンギン属
  • 亜種:ヒガシイワトビペンギン
  • 体長:50~58cm
  • 体重:3kg
  • 寿命:15年
  • 推定生息数:360万羽(キタイワトビペンギンとミナミイワトビペンギンの合計
  • 平均遊泳速度:7km/h
  • 最深潜水記録:168m
  • 渡り:5~10月
  • 産卵数:2卵
  • 性成熟:4~5歳
  • 主なコロニー:チリ南部、フォークランド諸島、アルゼンチン南部
  • 主な食べ物:オキアミ、イカ、魚類

1年間の生活スケジュール

詳しい内容については「繁殖と子育て」の章で説明します。

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名前の由来

名前の「イワトビ」は飛び跳ねて移動する様子に由来します。学名の「クリソコーメ」は「金色の毛をもつ」という意味で、金色の飾り羽に由来します。

生息数の動向

深刻な減少傾向にあります。キャンベル島のコロニーでは1942年に80万羽いたつがいが、2086年には5万羽にまで激減しました。減少原因の仮説として、厳しい繁殖スケジュールや、海水温の変化によるエサの減少があげられますが、確実な答えは判明していません。

生息地

南緯46~54°の非常に広大な範囲で暮らしています。世界中の動物園でも飼育されていて、飼育施設の半数は日本にあると言われています。

■ミナミイワトビペンギンの生息地■

ミナミイワトビペンギンの生息地

ヒナ

ヒナは頭から背中にかけて灰色がかった茶色、胸から腹にかけて白色の綿羽に覆われています。

巣立ちを迎えた亜成鳥は成鳥と比べて発色が地味で、瞳は暗い茶色、くちばしは黒みを帯びた茶色で、飾り羽も短いです。

■ヒナの容姿■

ミナミイワトビペンギンのヒナの写真

By Stan Shebs, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.orgimgimgclassificationwimgimgclassificationindex.php?curid=122703

■亜成鳥の容姿■

ミナミイワトビペンギンの亜成鳥写真 ミナミイワトビペンギンの亜成鳥写真

潜水と採餌

中規模の群れを作り、沖合で10~40m程度の潜水を繰り返して採餌を行います。平均潜水時間は1~3分ほどです。

また、名前の「イワトビ」が示すように、海と陸の行き来は岩場や崖を飛び跳ねて移動し、時には相当な高さから落ちても平気でいます。

繁殖と子育て

繁殖の難易度

イワトビペンギンは絶食を伴う子育てを行うペンギンの中で最も体が小さいペンギンです。そのため、絶食期間の余裕が少なく、ヒナを見捨てて採餌に出かける可能性も高まります。また、トウゾクカモメなどの卵やヒナを狙う天敵に対しても優位に立ちにくいです。これら理由によりイワトビペンギンの繁殖の難易度は非常に高いと言われています。

コロニーへの帰還

10月上旬にオスが先にコロニーへ帰還します。まずは昨年の巣の場所を確保し、新しい巣材を運び入れてメスを迎える準備を行います。1週間ほど遅れてメスが帰還し、求愛するオスに迎えられます。

つがいの絆

つがいの結びつきはあまり強くなく、昨年と同じパートナーと繁殖するのは5~6割ほどに留まります。

営巣

営巣地は高台の岩の斜面で、植物や岩石によって雨風がしのげる場所が好まれます。巣作りはメスの仕事で、オスが運んできた草や泥、小石などで作られます。

産卵と抱卵

11月中旬になるとメスは2つの卵を産みます。1つ目の卵は80gほどなのに対し、2つ目の卵は110gほどで、3割ほど大きい傾向にあります。コロニーへの帰還から産卵までは絶食で過ごします。

先に卵を温めるのはメスの役割です。オスは1ヶ月の絶食を終えるため、2~3週間ほど採餌に出かけます。オスが帰ると抱卵を交代し、今度はメスが40日ほどの絶食を終えるため採餌に出かけます。メスは卵が孵化するタイミングに合わせて採餌から帰ります。

孵化と保護期

35日ほどで卵が孵ると、ヒナは4週間ほどオスの保護下で、天敵や体温の低下から守られて育ちます。この間オスは絶食状態です。メスは毎日採餌へ出かけヒナにエサを与えます。なお、先に孵化するのは2つ目の卵で、親も優先的にエサを与えるので、1つ目の卵のヒナが巣立つことは非常に稀です。また、1つ目の卵のヒナは巣から追い出されることもあります。

クレイシ期

孵化後4週間ほど経つと、ヒナは親が抱けないほど成長し、以降40~50日ほどクレイシに加わります。両親は同時に採餌に出かけるようになりますが、ヒナへの給餌は毎日交代で行われます。なお、最初の1週間はオスが絶食後の採餌に出かけているので、メスが毎日給餌を行います。

巣立ち

ヒナは孵化後60~70日ほどで巣立ちます。ヒナの2年後の生存率は4割ほどと言われています。

ミナミイワトビペンギンの繁殖成功率は10組のつがいの内5組が1羽巣立たせる程度です。

換羽

ヒナが巣立つと換羽前の採餌旅行に出かけますが、その期間は1ヶ月と他のペンギンとくらべてに長いです。期間の長さはミナミイワトビペンギンにとって、繁殖スケジュールがいかに厳しいかを物語っています。換羽は3月中旬から25日ほどかけて行い、この間に体重は4割ほど減少します。多くの個体は巣の場所で換羽を行いますが、若鳥はコロニーの周辺部や上陸場所の岩場など、大人とは別の場所で換羽します。

厳しい繁殖

体の小さなイワトビペンギンにとって、複数回の絶食を伴う繁殖は非常に要領が悪いと言えます。まず、絶食後の採餌に余裕がありません。少しでも採餌が不調だと自分の命を守るため採餌期間を伸ばすしかありません。そうなると抱卵中のパートナーとの交代が遅れます。やがてパートナーに餓死の危機が迫ると、卵を放棄して採餌に出かけるほかなくなります。このように繁殖スケジュールのタイミングがシビア過ぎるのです。

そのためか、イワトビペンギンが毎年繁殖を行うことは非常に稀です。3年連続で繁殖を行ったペアはわずか5%に留まり、オスの3割は3年間に一度も交尾をしないとも言われています。

神経質な性格

イワトビペンギンは非常に神経質な性格で、常に何かに追われているように急ぎ足でケンカも頻繁に行います。イワトビペンギンは体が小さく、陸では大型の鳥類に、海ではオットセイやアザラシなどの海獣に一方的に狙われます。神経質な性格は、ペンギンの中でもトップクラスで過酷な状況を生き残ってきた術なのかもしれません。