ペンギンの繁殖活動
ペンギン全種に共通する繁殖活動について解説します。種ごとの個別情報は「ペンギンの種類」のページで解説しています。
コロニー
ペンギンは集団で一地域に集まり繁殖を行います。(※1)この繁殖期にペンギンが集まる場所を「コロニー」と呼びます。コロニーの規模や密度は種によって様々ですが、基本的にペンギン同士のケンカがいたる所で発生し、騒々しい空間となっています。また、ペンギンのうんちや卵の残骸、襲われたヒナや餓死したペンギンの死骸などで、むせ返る激臭が鼻をつきます。
なお、ペンギンのコロニーを「ルッカリー」と呼ぶこともありますが、本来はミヤマガラスの集団繁殖地を指す言葉です。
※1:例外としてキガシラペンギンはコロニーを作らず、つがいが単独で繁殖を行います。
■コロニーの密度のイメージ■
渡り
春になると繁殖のため日本に訪れ、冬には温かい南方地域へ移動するツバメのように、ペンギンも18種中12種が「渡り」を行います。ペンギンの渡りは「回遊」と表現されることもあります。渡りを行う多くのペンギンは、繁殖期が終わり冬を迎えると、エサを求めて数ヶ月間海上を泳いで移動します。この間、陸地に上がることはほとんどありません。
繁殖シーズン
ペンギンの繁殖期は種によって異なりますが、基本的に春になる10月前後に卵を産み、夏場にかけて子育てを行い、夏が終わる2月前後にヒナを巣立たせます。寒冷地に住むペンギンは渡りを行うため、コロニーへの帰還時期に同調性が生まれ、一斉に繁殖期を迎える傾向にあります。一方で、温帯地域に住むペンギンは定住性で渡りを行わないため、一年中繁殖を行う可能性があり、種として決まった繁殖期を持ちません。
補足として、南半球は北半球と四季が逆転しています。南半球の季節は、春が9~11月、夏が12~2月、秋が3~5月、冬が6~8月です。南極では春から秋までの期間が短く、その分冬の期間が長くなります。
■交尾の様子■
巣
エンペラーペンギンとキングペンギンを除き、ペンギンは巣を作ります。巣材として利用できるものは何でも利用し、小石や草木、海藻や骨などを積み上げて巣を作り上げます。また、砂地やグアノ層(※2)に巣穴を掘ったり、人工物の隙間を利用する種もいます。いずれにせよ、巣は卵が転がり出るの防いだり、水の侵入を防ぐ重要な役割があります。
なお、巣を作る際は場所の取り合いや、巣材を盗むなどして、頻繁にケンカが発生します。
※2:ペンギンや海鳥などのうんちや死骸が積み重なってできた地層。
■巣に小石を敷き詰めている■
産卵
ペンギンは種によって1つまたは2つの卵を産みます。2つの卵を産む種は多くの場合、成長が著しい方のヒナに優先的に採餌を行い、もう一方の幼いヒナは餓死してしまう傾向にあります。ただし、ガラパゴスペンギンのように2卵とも献身的に育てる種もいれば、ロイヤルペンギンのように一方の卵を産んですぐに放棄する種もいます。
抱卵
卵が孵るまで温めることを抱卵と呼び、オスとメスが協力して行います。唯一、エンペラーペンギンはオスのみが抱卵を行います。ただし、卵の孵るタイミング次第ではメスに抱卵を交代することもあります。
巣を作る種は卵の上に腹ばいになって温めます。巣を作らない種は脚の上に卵を乗せ、お腹の羽毛で覆いながら卵を温めます。
卵を温める際は「抱卵嚢(ほうらんのう)」と呼ばれる器官を使います。抱卵嚢は下腹部にある肌が露出した部分で、血液が充満して膨らみ、卵やヒナに効率良く体温を伝えることができます。
■抱卵の様子■
孵化
孵化が間近に迫ると、卵の中のヒナは鳴き始めます。孵化の際、ヒナは「卵歯」と呼ばれるくちばしの突起で卵をつつき、穴をあけます。そして、輪切り上に卵を割ってゆき、最後には脚で踏ん張って割れた殻を押し出し、卵から出てきます。卵歯は孵化後しばらくすると抜け落ちます。
■孵化したエンペラーペンギンの卵■
幼綿羽と第二幼綿羽
孵化直後のヒナは幼綿羽と呼ばれる保温性に優れたふわふわな羽毛に覆われています。ただし、ヒナ自身の脂肪が不十分なため、自分で体温を維持できません。そのため、孵化後2~4週間ほどは親の抱卵嚢で温めてもらう必要があります。この時期のことを「保護期」とも呼びます。
ヒナが親の抱卵嚢に入り切らないほど成長すると、幼綿羽は第二幼綿羽に生え換わります。この頃になると脂肪も十分に蓄え、自分で体温を維持できるようになります。
なお、綿羽には防水性能がないので、ヒナは海に入ることはできません。
■幼綿羽の雛■
■第二幼綿羽の雛■
クレイシ
ヒナがある程度成長すると、それぞれの巣から離れて他のヒナと集まり、「クレイシ(共同保育所)」と呼ばれるヒナの集団を形成します。クレイシを形成すると天敵はヒナへ容易に近づけないため、大人の保護を必要としません。これは、育ち盛りの旺盛なヒナの食欲を満たすために、両親が同時に採餌へ出かけることに役立っています。他にも集団で集まることによる体温維持の役割や、天敵の脅威から生き延びれない弱いヒナを淘汰する役割があると考えられています。
クレイシには何十、何百というヒナが群れていますが、両親は鳴き声でヒナを聴き分け、決して他所のヒナに給餌をすることはありません。そのため、親を失ったヒナは餓死する運命にあります。ヒナも両親の鳴き声を聴き分けけることができますが、別の親鳥であってもエサを求めて鳴き声をあげます。
両親は、初めはクレイシ内のヒナの元まで移動して給餌を行いますが、ヒナが成長するとクレイシから自分の巣のあった場所に連れて帰り、そこで給餌を行うようになります。やがて、クレイシの外からヒナを呼び、ヒナが自分でクレイシの外へ移動することを促すようになります。
なお、フンボルトペンギンなど、クレイシを形成しない種もいます。
巣立ち
綿羽が抜け落ちて、大人と同じ羽毛(※3)に生え換わると、海に入ることができるので巣立ちを迎えます。両親が巣立ちに付き添うことはなく、ヒナは自分だけで海へ行き、自力でエサを探さなければなりません。コロニーを旅立つと数年間は遠方の海で過ごし、繁殖可能になると生まれ育ったコロニーへ帰還します。
※3:大人と同じ防水性能を持った羽毛に生え換わりますが、体の模様は大人と若干異なります。この状態を亜成鳥と呼び、翌年の羽毛の生え換わりで完全に大人と同じ模様になります。
■巣立ち目前のヒナ(亜成鳥)■