ペンギンの羽毛
ペンギンの羽毛は防水性と断熱性を兼ね備えた優秀な毛布で日々のメンテナンスも欠かせません。
羽毛
ペンギンにも鳥類と同じように羽毛が生えていますが、構造に違いが見られます。鳥類と比べ、羽毛は1本1本が短く、密度も3倍ほどあります。また、整列して生えておらず、不揃いに皮膚をびっしりと覆っています。さらに、揚力を生む必要もないため、左右非対称ではなく、左右対称の構造をしています。
ペンギンの羽毛は役割の異なる2つの部位で構成されています。羽毛の根元側はふわふわの綿羽になっていて、空気を溜め込んで断熱の役割を果たしています。羽毛の外側は細かい鍵状の突起が無数にあり、互いに絡み合って全身の羽毛を1枚の服のようにまとめる役割を果たしています。
■羽毛の拡大図■
■羽毛が逆立ち浮き出る綿羽■
ヒナの羽毛と体温維持
ペンギンのヒナはふわふわとした綿羽で全身を覆っています。綿羽には保温の機能が備わっていますが、卵から孵化したばかりのヒナは、それだけでは十分に体温を維持することができません。そのため、親鳥はヒナの上に覆いかぶさり、自分の体温でヒナを温める必要があります。
2周間ほど(※1)経つとヒナの体も大きくなり、皮下脂肪も蓄えられて、自分だけで体温を維持できるようになります。しかし、その後も油断はできません。親鳥からの給餌が何等かの理由で滞ると、ヒナはすぐに痩せて皮下脂肪を失います。やがて体温を維持できなくなり、餓死するよりも先に凍死してしまいます。
ヒナがこれらの危機を乗り越えて十分な脂肪を蓄えるまで成長すると、役割を終えた綿羽は抜け落ちて親鳥と同じ羽毛に生え換わります。
※1:親に温めてもらう期間は種によって異なります。大半の種は2周間程度ですが、エンペラーペンギンやキングペンギンは40日ほど親の体温保護を必要とします。
■1日齢のフンボルトペンギンのヒナ■
換羽
ペンギンは年に1回(※2)全身の羽毛が新しく生え換わる「換羽」を行います。換羽は古くなって断熱性や防水性が失われた羽毛を新調する役割があり、海を泳いで生きるペンギンにとって重要なイベントの1つです。
ただ、換羽はペンギンにとって致命的な問題を抱えています。換羽中は海に潜れないので、食料を海産物に依存するペンギンにとって絶食を余儀なくされるのです。さらに、換羽は子育て後の体力を消耗した時期に起こり(※3)、換羽自体も相当なエネルギーを必要とするので、非常に大きい負担となります。ペンギンは毎年この三重苦のストレスに耐える必要があるのです。
ペンギンは換羽に必要なエネルギーを皮下脂肪として蓄えるため、換羽前に長期間、食料の食いだめを行います。これは通称「採餌旅行」と呼ばれます。採餌旅行の期間は多くの種で2周間程度を要し、この間に体重は3割~5割ほど増加します。ここで十分なエネルギーを蓄えられなかったペンギンに待っているのは、換羽中の餓死のみです。
換羽は以下3段階の時期に分けられます。
1.採餌旅行中に皮膚内で新しい羽毛が作られる時期
2.絶食中の、新しい羽毛が古い羽毛を押し出して生え換わる時期
3.生え換わりが完了し、新しい羽毛の羽繕いに勤しみ、防水性を高める時期
最後の時期は蓄えたエネルギーを使い果たしたタイミングなので、最も生命の危機が高いと言われています。
※2:ガラパゴスペンギンは年に2回行います。
※3:キングペンギンは子育て前に換羽を行います。
■換羽前後の羽毛の比較■
■新しい羽毛の撥水性■
亜成鳥
ヒナ特有の綿羽が抜け落ちて、羽毛に生え換わったペンギンは、成鳥に次ぐ若鳥であることから「亜成鳥」と呼ばれます。
亜成鳥も大人と同じ羽毛が生えていますが、体の模様は大人と若干異なります。亜成鳥は最初の換羽を迎えると、大人と同じ模様の羽毛が生えて成鳥となるのです。
■亜成鳥と成鳥の比較■
尾腺と羽繕い
ペンギンの尾には尾栓と呼ばれる油を分泌する器官があります。この油には羽毛の断熱性と防水性を保つ役割があり、ペンギンは羽繕いでこの油を全身に塗ります。
羽繕いの手順は、羽毛に付いた砂などの汚れを取り除くことから始まります。次にくちばしを尾栓にこすりつけて油をとります。最後に、上下にくちばしを動かして羽毛に油を塗り拡げます。
また、夫婦の愛情を確認する手段としてお互いの羽繕いを行い、これを「相互羽繕い」と言います。他にも、寄生虫を取り除く目的で行うこともあります。羽繕いはペンギンにとって、毎日数時間の時間を費やすライフワークといえる重要な行為なのです。
■ペンギンの尾栓■