ペンギンの身体能力

ペンギンの体には極寒の海で生き抜く優れた能力が備わっています。

眼と視力

人間は水中で目を開けると、視界がぼやけます。これには目の仕組みが影響しています。生物がものを見られるのは、眼の角膜と水晶体が光を屈折させて網膜上に像が映り、脳に鮮明な情報が送られるからです。しかし、水中では角膜による屈折がほとんど起こらないため、ピントが合わず視界がぼやけるのです。そのため、陸上動物は水中で遠視寄りに、水中動物は空気中で近視寄りになります。

ペンギンも長らく、陸上では近視寄りだと考えられていましたが、近年の研究により、陸上でも水中でも視界がはっきり見える、水陸両用の眼を持っていることが判明しました。ペンギンの角膜は非常に平らな構造で、空気中でも水中でも光をほとんど屈折させません。それを補うため、水晶体は非常に大きく変化させることができます。つまり、ペンギンは水晶体1つでピントを合わせる力技で水陸両用の眼を手に入れたのです。

■水陸両用の眼の仕組み■

水陸両用の眼の仕組み

聴力

普段は羽毛で隠れて見えないですが、ペンギンにも頭の両側に2つの小さな耳の穴があります。ペンギンは1羽1羽の鳴き声を聞き分ける能力を持っています。繁殖期のコロニーは何万羽というペンギンの鳴き声で溢れますが、つがいやヒナの鳴き声を聞き分けているのです。

■ペンギンの耳の穴■

ペンギンの耳の穴

呼吸器系

ペンギンには、酸素を効率良く利用できる優れた呼吸システムが備わっています。鳥類と比べて、肺は大量の空気を蓄えられ、血管も太く、血液中に含まれるヘモグロビンの量も多く、大量の酸素を体中に運ぶことができます。さらに、筋肉組織内にはミオグロビンと呼ばれるタンパク質を大量に持っていて、体内にある酸素の半分を筋肉に蓄えています。これらの機能によりペンギンは潜水前に大量の酸素を体内に蓄えることができます。

ペンギンの体は潜水中になると酸素節約モードに変化します。初めに心拍数を1/3まで下げて酸素の消費を抑えます。さらに、脳や心臓などの重要な臓器にのみ酸素を供給するようになります。このような酸素の消費量を減らす仕組みにより、長時間の潜水を実現しているのです。

ペンギンの優れた潜水能力は酸素の効率的な貯蔵と使用によって支えられているのです。

血液循環

極寒を生き残るため、ペンギンには血液循環を部分的に制限する特殊な能力が備わっています。からだの表面に繋がる一部の血管には、弁の役割をする特殊な筋があり、血液の流れを一時的に制限することができるのです。この機能を利用し、体の末端の体温を極端に低下させて、脳や心臓などの生命維持に不可欠な体の中心部の体温を維持しているのです。

さらに、ペンギンには動脈の熱で静脈の温度を維持する「対向流交換」というシステムも備わっています。外気に接している体の末端の細い静脈が、太い動脈に重なるように流れていて、熱の均一になろうとする性質により、動脈の熱で静脈の血液が温められて、体の中心部の体温を維持できるのです。「対向流交換」が優れているのは寒さだけでなく暑さにも対応できることです。フンボルトペンギンやガラパゴスペンギンなど、熱帯地域に暮らすペンギンは、このシステムを利用して高温の外気から体温を一定に保っています。

優れた体温維持システムを持つペンギンですが、それを持ってしても寒い時はあります。そうなるとペンギンも人間と同様に体を震わせ、代謝を上げてることで体温維持を試みます。

■対向流交換の仕組み■

対向流交換の仕組み

ペンギンは鳥の仲間ですが、鳥類が持っている嗉嚢(※1)がありません。そのため、食べ物は直接胃に送られます。

胃は前胃と砂嚢の2つに分かれています。前胃は酸性の胃液により食べ物を化学分解する役割があります。さらに、前胃にはヒナに与えるエサを蓄える役割もあります。エサを蓄える際は胃液のphを上げて弱酸性状態にし、エサが消化されすぎないようにしています。砂囊は事前に蓄えた砂や石などを利用し、厚い筋肉壁で食べ物をすりつぶす役割があります。

食べ物の消化は早ければ6時間ほど、遅くても24時間以内に完了します。

※1:胃の前に位置する、食べ物を一時的に蓄える器官です。

■ヒナへの給餌■

塩分除去

ペンギンには他の海鳥と同様に、目の上に塩類腺と呼ばれる塩分を除去する器官があります。塩類腺は海水を摂取するペンギンにとって非常に重要な器官で、肝臓だけでは除き切れない血液中の過剰な塩分を排出しています。水族館で見かけたペンギンが頭を振って鼻水を飛ばすような仕草をしていたら、塩分排出の最中かもしれません。

■塩類腺の位置■

塩類腺の位置

■塩類腺から排出される塩分■

脚力

陸上ではよちより歩きで可愛らしいペンギンですが、脚力は意外と強く、自分の体と同じ程度の高さなら跳び上がることができます。飛ぶ高さの見当は、飛び上がる岩にくちばしを当てて測っています。

■ジャンプの様子■